2009-07

冷血もしくは冷徹

Dr. HOUSE/ドクター・ハウス シーズン1 DVD-BOX1Dr. HOUSE/ドクター・ハウス シーズン1 DVD-BOX1
(2009/05/09)
ヒュー・ローリーリサ・エデルシュタイン

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ずいぶん前に医師の人がアメリカでこれを観て面白かったといってた。そこでネットを探してみたらあったので、入手したら米国視聴仕様とかいうやつで、リージョンを変えて観てみたが、当然英語で、悔しくて泣いた。

先日、民放テレビの深夜枠で、偶然シーズン1の第一話が放映されているのを目にして、しかも偶然オープニングからだったので、食い入るように観た。神の計らいというのはあるものだ。

主人公は冷血である。少なくとも言動からはそう取れる。本筋に関わる厄介な感染症の女性という症例の診断に苦慮する医師団を冷ややかに見つめ、患者も冷ややかに見つめる。暫定診断を下し、その推測に基づいて治療をするが、それはジェットコースターのように患者の状態を揺さぶる。絶望する患者は治療を拒み、尊厳を維持するための死を希望する。それをハウスは否定する。吐き捨てるように。

ハウスの医療チームに配属された若い男性医師は、自分の実力を買われたのではなく、若い頃の過ち、即ち犯罪歴を買われたのだとハウスから告げられ、自尊心を潰される。

もう1人の女性医師は、能力を買われたのではなく、美人であったから採用されたと告げられ、やはり自尊心を傷つけられる。

終盤、病状が回復した女性患者は、ドクター・ハウスに会いたいという。お礼がしたいと。しかし、ハウスはその場には居ない。周りの医師が、かれは仕事が終わるとどこかに行ってしまうんだと、肩をすくめながら答える。寂しげな表情を浮かべる女性。

彼女には、ドクター・ハウスが、冷血ではないと思えたのだ。冷徹だが、暖かい血が通っているという事実を悟ったのだろう。

ハウスは、人を、言葉を、信じない。

では、かれはなにをしんじるのか。

役員構成表を見て驚く春

連日の好天で桜が満開になった。桜並木の下、花見をやろうという話が身の回りで盛り上がっている。今年の冬シーズンは忙しくてインドアのクライミングウォールに行く機会が少なかった。身体がなまったような気がする。ので、今度の日曜日はのっけから外壁なんだけど、落ちないように気をつけたいと思う。

ところで、所属している組織の今期役員構成表(予定)をみて驚いてしまった。私のところに役が二つも付いている。とりあえず、忙しいんですけど。次世代を担う若手を育てたいということのようだが、あまり若手でもないんですけど。

クライミングを楽しむ時間を削られるというのが一番の苦痛だが、仕方ない。今期をやり過ごして次期は(それまでに根回ししてw)楽させてもらおうと思う。

ところで、いつかエントリしようと思っていた話題だけど、平山ユージ氏直筆サイン入りクライミングシューズを撮った画像、どこへやったかなぁ。氏が松本にやってきたとき、クライミング仲間のご子息が、持っていたFIVE_TENのアナサジに書いてもらったもので。私がもらったわけでもないけど、書き立てほやほやだったし、レアですから。見つからないので、こそっとエントリしておこう。

値段をみて驚く春

久々の穏やかな休日、空は晴れ渡りお山は美しい。残雪を頂いた北アルプスの峰が、春霞のなかにほんのりと浮かんでいる。この山脈の向こう、海を隔てた独裁国からロケットが発射されたとは信じがたいほどの、穏やかな風景だった。

南の方からちらほらと、花の便りが届いている。こちらは連翹(レンギョウ)が黄色く色づき始めた。しかしまだ桜の蕾は堅い。日差しだけが、春の訪れを告げている。

陽気に誘われるように、物欲の虫が動き出す。空いた時間を利用して、アウトドア用品店を何軒か廻った。とはいっても、ライトなキャンプ用品を季節に合わせて販売するような一般スポーツ店ではなく、登山・クライミングギアを豊富に扱う専門店ばかり。幸い、すべての店が車で2,3時間移動をかければ廻れる範囲にあるから、昼飯を食べがてらドライブするのにも好都合だ。

なじみの店員さんと軽く雑談したり、ギアをしげしげと眺めたり、新作ウエァを(買う気もないのに)試着したりするのは楽しい。お目当ては秋冬もののソフトシェルか中綿が化繊のミドルウェア。冬物はアウトレットを狙うのが良い。中綿がダウンのものは、水に弱いしメンテが大変なので、あえて避ける。

最後の店でお目当てのものがあった。しかもミドルにもアウターにも使える薄手ソフトシェルと、化繊中綿の超軽量パーカーが、揃って特価で売り出されているではないか。まだこれから梅雨までの冷え込み対策にも使えるし、サイズもちょうど良い。早速手にとってレジに進む途中で目に付いたのが、エントリ末尾に載せた写真のクイックドローだった。

いい。欲しい。軽いし機能的だし。しかし値段を見て驚いた。普通のものなら1セット2,000円(カンプとか)から3,000円(ブラックダイヤモンドとかワイルドカントリーのノーマルクラスとか)程度で買えるのだが、これは5,000円以上する。通常、クイックドローは10セット程度買いそろえるから、全部買ったらたいした出費になる。

今使っているのは、ゲート部分に刻み(この仕組みはポピュラーなものだけど)があって、いささか不便を感じる。ハーネスから外すときに引っかかり気味になるのと、プロテクションから外すときにそれがまた引っかかって、とくにハングの壁だとロープがテンション気味になるので、外すのに四苦八苦することがある。降りるときはまだ良いが、プロテクションに引っかけるときにもたつくのは、焦ったりパニクったりしていると、落ちることに繋がりかねない。
(もっとも、登攀技術を磨いていけばいいのですけど、未熟者ほどなにかとギアに頼ると言うじゃないですか)

ともかく、ペツルのも良かったけど、これのほうがいいなぁ。いつか買おう。

クイックドロー
(c)DMM

敵役がいるという幸せ

フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)
(2008/07)
R.D. ウィングフィールド

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東京創元社 フロスト気質(かたぎ) R・D・ウィングフィールド/芹澤恵訳 書籍解説

警察小説として絶大な人気を誇るシリーズ最新刊です。詳しい解説は上記リンクで言い尽くされているので、まずはそちらを読んでください。

さてそのうえで。

自己責任という言葉がありますが、警察機構において捜査指揮権を有するフロスト警部は、その責任において、次々と発生する事件を解決して行かなくてはなりません。人質となった子供の命の確保、変死体発見後の捜査、狂言じみた誘拐の真相解明、子供を狙う変質者の取り調べなど。それらすべてが、小説冒頭で、休暇中の身でありながら、マレット署長の上等なタバコをくすねるために立ち寄った夜のデントン警察署という地点から、パンドラの箱を開けはなったかのように、フロスト警部に襲いかかります。

フロスト警部の上司であるマレット署長以下、捜査指揮件を有する幹部クラスは、悉く、出世欲と見栄に支配された俗物として描かれます。厄介な局面をかぎつけるとフロストに押しつけ、利益と見ると手柄を我がものにし、失点はすべてフロスト警部に押しつけるのです。つまり、フロストは警察組織の中で、上層部から孤立し、一人の責任で事件を解決していかなければならない立場にあります。

人員不足のなか、次々と降りかかるトラブルに対して、フロスト警部は猛烈に立ち向かいます。しかしそれは、冷静なヒーローの体力と知力に恵まれていない、ある意味これもまた俗物なフロスト警部にとっては、傍目にも、荷が重すぎる出来事の連続です。

ほとんど不眠不休で捜査を進めるフロスト警部は、上司たちの保身と出世欲を一身に背負いつつ、愚痴をこぼし、思いつきで捜索隊を立ち上げ、その捜査の当てが外れてしょげまくり、また奮起して次の手を打っていきます。そしてうまく行きそうになると、鳶にあぶらげをさらわれる形で、手柄は他人に持って行かれます。

彼の支えは、デントン警察署の刑事クラスや巡査クラスの人たちです。手当たり次第に捜査をかけまくるフロスト警部に、ほとんど愚痴をこぼさず付いていきます。彼らはフロスト警部が好きなのです。それ以上にマレット署長をバカにして煙たがってはいますが。

今回の紅一点、魅力的な素質を持ちつつ仕事の意欲と出世願望がそれを隠してしまっている「ワンダーウーマン」リズ・モードは、当初フロストを毛嫌いします。それはマレット警視がもつ欲望と同一線上にあるのですが、下品な性的ジョークを発し続けるフロストへの嫌悪、あまりにも適当に事務処理を片付けるフロストへの軽蔑、その薄汚いとも思える風体への反発にも根ざしています。しかし、事件が進んで行くにつれ、フロストとリズの距離は心なしか縮まっていきます。フロストの指揮下で、率直に、事件を解決していこうという方向に、彼女の内面は変わっていくのです。

デントン警察署の刑事たちとリズは、フロストの熱意と魅力に、少しずつ好意を寄せていきます。フロスト警部とほかの上級職員やマレット署長の対比と重なりつつ、読む者も彼らやリズのように、フロスト警部に惹かれていくのです。

なぜ惹かれるのか、それは敢えて伏せておきます。上下2巻の長い長い小説です。そのほとんどが、ろくにベッドにも入れず駆け回る羽目になる事件展開、フロストと上司の対決、行き詰まる捜査とその挫折、フロストと確執のある警部代理との諍いとで費やされますから、読むほうも不眠不休の気分を味わいます。

そして。終盤に向けて事態は一気に動きます。フロストは、最後の最後まで、自分の主義を貫きます。そして、「クソが付くほど厄介でいまいましい事件」の数々に、フロストは一気にケリをつけます。

あと2作。作者は亡くなり、フロストの活躍は2作が未訳で残っています。今度はどんなやりかたで、さまざまな「クソ」にケリを付けてくれるのか。待ち遠しい限りです。

愛しき日常世界

忙しさを通り越して、私は今何をやっているんだろうと、不意に頭の中が白くなる瞬間がある。つい先日までそうだった。習慣化しているはてブチェックとRSSチェックの時間だけが息抜きだった。それにしたって、意識の半分以上は仕事のことで埋まっている。癖になっている行動だから、ちょっとした時間の隙間にネットを覗くことは負担にならないのだが、何かを考えて書く事など、到底できない心理状態になる。

そういうなかでネットから自分の問題意識に引っかかった出来事はいくつもある。それらは頭の片隅の「いつか書く」の小箱にしまい込みつつ、また仕事に向かう。

いずれ話題にしようと思うのだが、キャンベルの「千の顔を持つ英雄」やそれをもとにした「神話の法則」など「物語」のバックボーン理論は、私の中でつねに「いつか書く」小箱の一番大きな課題になっている。簡単に言えば、神話世界の普遍的物語構造への考察だ。

(この一文を書いている間にも、すでに3回事務連絡が入り中座した(笑))

で、それはすべての「ストーリーテラー」に役立つことでもあるのだが、さらに、人の一生をストーリーと捉えた場合、そのすべての人生に関わるメカニズムでもある。こう書くと宿命論とか機械論めいて見えるが、そうでなく、ダイナミックに変転する私たちの「運命」そのものが、ひとつの「物語」であるという認識である。

「いつか書く」の小箱に眠っている、いくつもの物語たち。あるものは吟遊詩人のファンタジーであり、あるものは無慈悲な宿命への抗いであり、またあるものはブログのエントリであるが、それらはひとつの基盤に依っているものだ。

ストーリーテリングのプラクティカル・ガイドによれば、すべてのストーリーテラーは、その物語を生み出すとき、深刻な内面の葛藤を抱えている。その葛藤が「人生」への洞察となり、物語へと昇華する。生活のエネルギーを削り取るような人生における苦しみは、ストーリーテラーにとって、人生を語る豊饒なる源泉であるという、矛盾してはいるが厳然とした真実がある。

オーディナリー・ワールド。

出発地点は、日常世界である。そこに亀裂が入るとき、旅が始まる。少しずつ、その裂け目に垣間見える、非日常世界に、ヒーローは踏み込むことになる。しかしそれは、たいてい抵抗される。ヒーロー自身によって。

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