2017-05

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エンドルフィン デイ

生と死の分岐点―山の遭難に学ぶ安全と危険生と死の分岐点―山の遭難に学ぶ安全と危険
(1999/05)
ピット シューベルト

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アドレナリン血中濃度の急上昇。体内に貯蔵された糖の瞬間的放出。末梢血管は収縮し、筋肉組織に血液が廻り、筋繊維への酸素供給を高める。心拍数の上昇とともに呼吸は速まり、筋肉への酸素供給が加速する。

危険を感知した身体がものすごい早さで反応する。闘争・回避反応。その反応は、原初より私たちの身体に組み込まれたシステムである。

このシステムが発動すると、脳の中でもう一つの防御システムが発動する。内因性モルヒネ、エンドルフィンが中枢神経を駆けめぐる。多幸感に襲われ、痛みを感じなくなる。自分は何でも出来るという全能の状態。この状態は、闘争や回避行動に伴う苦痛と恐怖から私たちを解き放ってくれる。

これが日常的に繰り返されると、身体は刺激を求める。エンドルフィンを得るために危険を求める。クライミングでの「面白さ」を、著者はそう捉えている。だからか、今度の週末には用事が出来てクライミングが出来ない、というとき、クライマーは落ち込むという。失望感は、エンドルフィンを得られないことからくる、いわば禁断症状なのだという。
こういう身体的な快感がクライミングの醍醐味なのかも知れないが、その快感を得るために用いる手段は、あくまで理性的でなくてはならない。技術、装備、チームワークが不十分なとき、エンドルフィンを得ることなく、死に至る。それだけではない。勘違いや思いこみという、たった一つの思考のミスが、死に直結する。

その結果、事故が起こる。墜死したクライマーの姿。卵の殻同然に砕けたヘルメット、ちぎれたロープ、壊れたカラビナ。無惨な写真が多い。


著者は実力のある登山家で、理性的な技術者でもある。毎年ドイツを中心に報告される遭難事故を検証し、実験し、なにが起こったのかを解明していく専門委員会のメンバーである。その著者が書き起こしていく事故の数々。中にはバカバカしい勘違いもあるし、起きて当然だという事故もある。しかし、なぜ起きたのか分からない、ミステリアスな事例も多く存在する。生存者が居なければ、状況証拠と想像力で原因を探らなければならない。そのために大規模な再現実験を行うこともある。

著者たちは、それにより警告を発するのだが、「危険だから山に登るな」という、最も簡単かつ有効な警告だけは発しない。

人は勘違いをする。人は思いこむ。技術は完全ではない。装備は完璧ではない。自然は優しくはない。起こるべくして起こることは、いずれ必ず起こる。だから、この本を見よ、と著者は言う。そこには、先人の知恵と愚行がある。それを知り、自らの行動を変え、知恵を得るという行為は、言葉を持ち文字を発明した人間だからこそ出来るのであるという。

エンドルフィンの分泌により快感を得る。クライミングが楽しくてしょうがない。それは人間の本性に関わる行為であろう。しかしその快感は、危険を得ないと味わえない。その危険と快楽の狭間に、この本はある。単なる技術書ではない。人間学の本としても、興味深く、非常に優れた本だ。

続 生と死の分岐点―岩と雪の世界における安全と危険続 生と死の分岐点―岩と雪の世界における安全と危険
(2004/06)
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さらに希望と絶望と人間の内面を知るために。

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